渡航先(国・機関)

アメリカ・ニューヨーク市立大学 クイーンズカレッジ アーロン・コープランド音楽院

渡航期間

2023年8月〜12月

主な渡航目的

留学

渡航先決定理由

ニューヨーク市立大学クイーンズカレッジ アーロン・コープランド音楽院は、世界各国から優秀な指導者・研究者・学生が集まり、最高峰の音楽研究・音楽教育がなされています。また、学内外で頻繁にカンファレンスやマスタークラス、リサイタルが実施されているため、自分のスキルを最大限に活かして学ぶことができる留学先だと考えました。

研究テーマ

科学的アプローチによって歌が上手くなる!?

私は、歌が上手くなる方法を科学的に解明するための研究を行っています。具体的には、昨年、立体音響録音システムを用いた模擬声楽コンクール実験をSONYと共同で実施し、それぞれの歌手の歌声を高次倍音、母音のフォルマント、ヴィブラートの振幅、ピッチ等といった多角的な観点から解析しました。そこで得られた音響特徴とコンクールの審査員による主観的評価の関連性を明らかにすることで上手い歌とそうでない歌の音響特徴が明らかになってきました。次なる課題は、Cの評価の歌声をAに高めるためのメソッドを解明していくことです。研究成果を声楽教育・技術向上の実践に活かし、その方法を確立していくことが私の研究の最終目標となります。

研究テーマを選んだ背景

研究テーマを選んだ背景

私は現在、ソプラノ歌手としてオペラの舞台で演奏活動を行っています。16歳で声楽をはじめてから今日に至るまで、人の心に響く歌が歌いたいと、自身の歌声に向き合ってきました。声楽の個人レッスンにおいては、「ホールの一番後ろまで届く声で歌って」「お腹を使って歌って」といった曖昧な表現を用いた指導が主であり、憧れの歌声と自分の歌声との差異を埋める手段が見えず、葛藤する中で「歌声を可視化する」研究に興味を抱きました。受験生が模擬試験を受けて、自分の学力を客観的に知るように、定量的ないくつかの指標から自分の歌声の美点、弱点を知ることができ、クラシック声楽の歌声を瞬時に分析できるようなアプリがあったら、どれほど多くの歌い手にとって有益になることでしょう。そしてレッスンの前と後、一定期間の自分の技術の成長を数値的に可視化できたら、日々の努力が報われたと実感できます。本研究の成果として声楽アプリや教育メソッドが確立されたら、科学の力により、日本さらには世界の声楽界のレベルが向上し、芸術に大きな影響を及ぼすことが期待されると考え、現在の研究に取り組んでいます。

研究を社会に活かすビジョン

まずは私自身が人の心に響く圧倒的な歌声を身につけ、歌手として活躍することで、自身の研究の信憑性を立証できたらと願っています。私はこれまでもオペラやコンサート、TV番組への出演、コンクールへの挑戦をしてきましたが、歌手として更なる高みを目指していきたいです。その過程で、まずはクラシックの声楽における歌唱の音響解析方法をシステム化し、歌声を瞬時に解析できるソフトを開発します。そのソフトを使って、まず複数の指標から自分の歌声を客体化、可視化することで、技術向上のプロセスを記録し、既存の技術向上のためのメソッドを取り入れながら、科学テクノロジーを活かした声楽の歌唱力向上のための教育メソッドの構築していくことが最終的な目標です。

研究を社会に活かすビジョン
研究を社会に活かすビジョン

海外活動によって得たもの、研究への影響、キャリア形成への影響

ニューヨーク市立大学 クイーンズカレッジ アーロン・コープランド音楽院に客員研究員として所属し、国際音楽演奏家コースを修了しました。また、留学中にコロンビア大学で行われた全米歌唱指導協会主催のNATS-NYCコンクールの大人部門で3位を受賞し、そのほかにもコンサート出演や大学内で行われた本番ではソリストに選んでいただき、大きなホールで歌わせていただくなど、ニューヨークでしかできない貴重な経験をすることができました。その他にも様々なマスタークラスやレッスン、講義を受講し、アメリカにおける最高峰の音楽教育の実態調査を行いました。そして、アメリカ人歌手20名の歌声の録音実験を行い、研究データを取得することができました。これらのデータの解析を現在進めています。その結果を論文執筆や国際学会での発表ができるよう、精進していきたいです。録音実験に協力してくださった歌手の友人たちや先生方など、国境を超えた出会いは、私の一生の宝であると感じます。今回の留学を経て、2024年の夏には、ニューヨークで行われるオペラに出演させていただく機会を得ました。この留学経験を、歌手として、研究者としての今後の自分のキャリアに活かせるよう、日本国内だけでなく、常に世界に目を向けながら活動していきたいです。

海外活動によって得たもの、研究への影響、キャリア形成への影響

教育研究面で、海外活動を通じて気付いたこと

教育研究面で、海外活動を通じて気付いたこと

今回の海外活動を通じて、私の研究分野である音楽神経科学は、学術研究としては世界で進歩を遂げているはずなのに、まだまだ米国の音楽大学でも実践の現場には活かしきれてはいないと感じました。逆にニューヨーク市立大学のなかで、多くの先生が私の研究に興味を示し、この分野の研究成果に期待を寄せてくださいました。現在、自分が行っている研究は、アメリカをはじめとした海外の音大でも求められている知見であることに確信を持てたので、研究へのモチベーションも高まりました。

語学面での準備

普段からSFCの研究会や授業は英語で行われ、英語でディスカッションをする機会も多いので、積極的に授業や研究会に参加することで、英語を聴く力・話す力を養いました。また、ニューヨーク留学前にボストンの語学学校に2週間通い、さまざまな国から集まった友人との会話や授業を通じて、海外での暮らしに慣れることができました。留学直前には、国際会議で発表させていただく機会があったので、英語で自分の研究について詳しく説明したり、ディスカッションができるように準備を行ったことが、今回の留学に活きたと思います。学会中は海外から来た研究者の方々に自分から声を掛け、できるだけコミュニケーションをとるよう心がけました。

生活面での準備

短期で借りられる家がなかなか見つからず、苦心しましたが、ニューヨークの日系不動産会社で物件をご紹介いただき、留学の1ヶ月前になってやっと住まいが決まりました。家具付きで大学やマンハッタンへの交通の便も良く、とても快適に過ごすことができました。アメリカは保険に入っていても、医療費が高額なので、病院のお世話にならないよう健康管理を徹底するだけでなく、日本から薬やコロナ検査キットなどを用意して行きました。

海外活動に要した費用の概算

渡航費 30万円、授業料60万円、宿泊費120万円、食費30万円他

費用の拠出元・資金名

Keio-SPRING挑戦的研究補助費、小泉基金

今後海外活動を予定している方へのメッセージ

今回の留学を通して、私は視野だけでなく人的なネットワークも広がったため、世界にアンテナを張って、行動することができるようになりました。私が主催するオペラ団体「Opera Lab Japan」で今秋行う公演では、アメリカで出合った作曲家の作品《An American Dream》を日本で初めて上演することになりました。今しかできない経験を積むために一歩踏み出すことはとても大切だと思います。情報収集をしっかり行ったうえで、自分に一番適した環境を見極め、挑戦すればかならず道は拓けます。新たな先生、共鳴し合える友人との出会い、ともに学び、お互いを高め合っていく経験を通して、皆さんもぜひ新たな可能性を広げていらしてください。