渡航先(国・機関)
アメリカ・オクラホマ大学
渡航期間
2023年8月28日〜9月24日
主な渡航目的
留学
渡航先決定理由
ナショナルデータベース解析を通じた疫学経験の蓄積
研究テーマ
リアルワールドデータを駆使した個別化医療の実現に関する研究
薬物治療における個別化医療の実現のため、リアルワールドデータ(診療情報データベースや各医療施設の診療データ)の解析を通じて臨床予測モデルの構築・検証を行い、最終的に臨床応用を目的とした研究を展開しています。
研究テーマを選んだ背景
薬物治療においては、その有効性のみならず安全性の考慮も重要です。一部の薬物治療による副作用の起こりやすさには個人差があり、年齢や既往歴、腎機能や併用薬といった患者の背景要因が関与していることがよくあります。そこで、これらの患者背景をもとに、副作用の起こりやすい患者と起こりにくい患者を事前(薬物治療開始前)に予測できるツール、即ち予測モデルを構築することができれば、臨床の観点からとても有益だと考えたからです。
研究を社会に活かすビジョン
社会、特に臨床現場に研究成果を還元することを重視しています。本研究では、予測モデルを臨床で実用可能な形に改良することに焦点を当てています。つまり、モデルの性能のみならず、多忙な臨床現場で簡単に使用でき、かつ予測結果が理解しやすいモデルデザインへと改良することが重要なプロセスとなっています。これにより、臨床業務に大きな負担をかけることなく、体系的で安全な薬物治療の実施ができるようになると期待しています。
海外活動によって得たもの、研究への影響、キャリア形成への影響
NCDB.SEER-Medicareデータベースの解析による2つの研究成果が得られました(論文化予定)。日本と異なる社会的背景、特に保険制度や人種などの要因を考慮した解析は自身にとって貴重な経験となりました。
教育研究面で、海外活動を通じて気付いたこと
アメリカにおいて、厳しいアカデミア競争を勝ち抜いた際に研究者が獲得できる研究費の規模には驚きました。私自身は主に臨床研究を行っており、基礎研究にはあまり携わっていないため、日々の研究生活における支出の大きさはあまり感じていませんでした。しかし受け入れ先の研究所では基礎研究をメインで展開しており、実験動物・試薬等の物品が毎日のように支出されていました。受け入れ先の研究責任者から聞いた話からも、「日本の科研費では数日ないし数ヶ月で使い果たしてしまう。アメリカでは一度に億単位の研究費(Grant)を獲得することができ、引き換えに自分の研究室を持つことができるが、その存続のためには数年毎にGrantを獲得し続けなければならない。生き残るのは簡単ではなく、とても厳しい世界」といった内容でした。
海外活動に対する展望については多かれ少なかれありましたが、今回の渡航で私自身の能力の未熟さや専門性の低さを改めて実感しました。そのため、海外を拠点に長期的に研究をするのは厳しいのではないかと感じました。しかしながら、今回の渡航は自身を別視点から評価できたという点においても貴重な経験となりました。
語学面での準備
私は帰国子女ではなく、中学からの学校教育のみで英語を学んできた平凡な学生でしたので、特別英語ができたわけではありませんでした。また、大学受験で英文法と語彙はそれなりにインプットしましたが、スピーキングを中心としたアウトプットが不十分だと感じていました。そのため渡米が決まった5月頃から、オンライン英会話を通じてアメリカ英語の発音やコミュニケーションスキルを中心に準備をしました。普段は研究室で個人作業を行っていることから、自分の好きな時間にレッスンを組んでいました。今でも感じていますが、24時間の使い方を自由にアレンジできる点は課程博士の特権だと思います(ゼミや研究会議はありますが)。当時レッスンは1日あたり25分×3回程度を毎日継続し、その分の研究時間は日曜日や祝日を研究に充てることで調整していました。
生活面での準備
車を運転する予定がなかったため徒歩圏内の住居を早めに決定しました。また、アメリカは紫外線が強いので、現地の気候に合う服装に加え、サングラス、日焼け止め等は入念に準備しました。
海外活動に要した費用の概算
渡航費22万円、宿泊費23万円
費用の拠出元・資金名
Keio-SPRING 研究費基礎額、小泉基金
今後海外活動を予定している方へのメッセージ
自身で主体的に計画・行動すれば、それは必ず貴重な経験になります。費用を抑えたければ早めの準備(VISA、航空機、宿泊地etc.)を推奨します。また、アメリカの建物はCentral heatingであることが多いので、夏でも厚手の上着等を1着は持参した方がいいかもしれません。