研究テーマ

日本の地方自治体で、多分野が連携しながら身体活動を促進するにはどうすればよいか。

世界では、身体活動不足によって多くの人が健康を損なっており、WHOも「身体活動を増やすこと」を重要な健康政策として提言しています。しかし、運動教室やイベントなど単発の取り組みだけでは、社会全体の変化にはつながりにくいという課題があります。
そこで近年注目されているのが、「システムズアプローチ」という考え方です。これは、個人の努力だけでなく、まちの環境、人とのつながり、行政の仕組みなどを含めて、社会全体から身体活動を支えていこうという考え方です。
私の研究では、縦割りになりやすい日本の自治体の中で、スポーツ、健康、まちづくり、教育など異なる分野が連携しながら進める方法を、自治体職員の方々と一緒に考え、実践しています。
研究室の中だけで完結するのではなく、実際の地域に入り込み、「どうすれば現場で本当に動くのか」を共に試行錯誤しながら形にしていく“実装型”の研究です。

研究のきっかけ

私は以前、行政保健師として働いていました。その中で、一人ひとりに健康指導を行うことは大切である一方、それだけでは限界があると感じるようになりました。
たとえば、「運動しましょう」と伝えても、忙しくて時間がない、歩きにくい環境である、周囲に一緒に活動する人がいないなど、社会や環境の影響によって行動を変えることが難しい場面を多く見てきました。
その経験から、「個人を変えるだけでなく、社会そのものを変える必要がある」と考えるようになり、ヘルスプロモーションや身体活動促進に興味を持つようになりました。
さらに学びを深める中で、身体活動は健康だけでなく、地域活性化、経済、環境、SDGsなどにもつながることを知りました。
「体を動かしたくなる人を増やす」のではなく、「自然と体を動かしたくなる社会をつくる」。そのためには、地域を支える自治体の役割が非常に重要だと感じ、現在の研究につながっています。

研究のきっかけ

研究上の工夫等

私が研究で特に大切にしているのは、「対話」と「仲間づくり」です。
自治体にはさまざまな部署があり、それぞれ異なる役割や目標を持っています。しかし最終的には、「地域をより良くしたい」という思いは共通しています。
そのため、多分野連携を進めるには、「どちらが正しいか」を議論するよりも、お互いの考えを理解し合い、自然と同じ方向を向ける関係性をつくることが重要だと考えています。
私はそのために、何度も現場へ足を運び、対話を重ねています。また、組織の中で周囲を動かす“キーパーソン”を見つけ、その人たちの思いやモチベーションを引き出すことも大切にしています。
研究者として外から評価するだけではなく、「一緒に地域を良くしていく仲間」として関わることを意識している点が、私の研究の特徴だと思います。

研究上の工夫等

社会とのつながり

この研究は、単に「運動する人を増やす」ことだけを目指しているわけではありません。
身体活動をきっかけに、人と人とのつながりが生まれたり、地域が活性化したり、歩きやすいまちづくりが進んだりするなど、さまざまな良い相乗効果が期待できます。
また、行政だけでなく、企業、学校、市民など、多くの人が「自分ごと」として関われることも特徴です。
私は、健康づくりを特別なものではなく、「暮らしの中に自然にあるもの」にしていきたいと考えています。その結果として、誰もがより健康で、暮らしやすい地域社会につながっていくことを目指しています。

今後の展望(研究)

今後は、日本の自治体で多分野連携を進めるために必要な具体的なプロセスや方法を整理し、全国に広げていきたいと考えています。
現在は一地域で実践を進めていますが、そこで得られた知見をモデル化することで、他の自治体でも応用できる可能性があります。
実際に、身体活動促進に取り組む自治体同士のつながりも少しずつ生まれており、お互いの地域を訪問したり、学び合ったりする動きが始まっています。
将来的には、こうしたネットワークを日本全国に広げ、「地域ぐるみで身体活動を促進する日本モデル」を世界に発信したいです。
そして、「身体活動促進といえば日本」と言われるような、新しい社会的ムーブメントを生み出していきたいと思っています。

今後の展望(研究)

今後の展望(キャリア)

私は、研究と現場をつなぐ“橋渡し役”のような存在になりたいと考えています。
研究成果を論文として発表するだけではなく、「現場で本当に役立つ形にするにはどうすればよいか」を考え続けたいです。
そのために、研究室と地域を行き来しながら、現場の課題や声を丁寧に拾い、実践に活かしていける研究者でありたいと思っています。
机上の理論だけで終わらせず、地域の人たちと一緒に悩み、一緒に挑戦しながら、社会を少しずつ変えていけるようなキャリアを築いていきたいです。

社会へのメッセージ

研究というと難しく感じるかもしれませんが、私は“人が自然と元気になれる地域づくり”を、地域の方々と一緒に考えています。 この研究を通して、「健康」は医療だけの話ではなく、まちづくりや人とのつながりとも深く関係していることを、少しでも身近に感じてもらえたら嬉しいです。

企業の方へのメッセージ

身体活動促進は、「健康分野だけ」のテーマではありません。まちづくり、交通、観光、教育、スポーツ、地域経済、ウェルビーイングなど、多くの分野とつながる可能性があります。現場で本当に動く仕組みを、自治体や企業、地域の方々と一緒に考え、共創していくことを重視しています。
そのため、実践知と研究知をつなぎながら、新しい価値を生み出すコラボレーションをぜひ広げていきたいです。

学生、他研究機関へのメッセージ

私の研究は、公衆衛生だけでなく、スポーツ科学、都市計画、政策学、教育学、行動科学、実装研究など、多くの分野と交わる研究です。
社会課題は一つの専門分野だけでは解決できないからこそ、異なる立場の人と対話しながら進める研究の面白さを日々感じています。
特に、地域の現場に入り込み、実際に人や組織が変化していく過程を見られることは、この研究の大きな魅力です。

後輩へのメッセージ

研究が、論文の中だけではなく、実際に社会の変化につながっていく瞬間に立ち会えることは、大きなやりがいです。
また、博士のキャリアは研究者だけではありません。行政、企業、実践現場など、多様な場所で「課題を見つけ、考え、つなぐ力」が求められています。
「社会を少しでも良くしたい」という思いがある人にとって、博士課程はとても挑戦しがいのある場所だと思います。