研究テーマ

窒素原子ドープ型カーボンナノリングの創製

私たちの研究グループでは、世の中にない未知の分子をデザイン・合成し、その特異機能を解明する研究を行っています。その中で私は、窒素原子を含有するカーボンナノリングの創製を目指しています。カーボンナノリングとは、炭素・水素原子で構成される通常は平面のユニットを大きなリング状に連結させた分子です。リング状にすることで平面からの歪みが生じ、ユニークな物理化学的特性を示すため多くの分野から注目を集めています。この炭素・水素から成るリング構造に窒素原子を導入することで、さらなる機能を付与できる可能性が期待されています。そこで私は、窒素原子を含有する平面ユニットであるキノリン環を用いた新奇なカーボンナノリングをデザインし、その合成と機能探索に取り組んでいます。

研究のきっかけ

私が有機化学の研究を選んだきっかけは、薬学部での生物有機化学の講義にあります。
この講義の中で、分子の構造活性相関について学び、化学構造の機微が生物学的活性の差異として現れることに感銘を受けました。それから分子の化学構造を自在に操作できる有機化学に興味を持ち、研究室配属では、新しい分子を設計することができる熊谷先生の分子創成化学講座を選択しました。現在の研究テーマであるカーボンナノリングに着目したのは、シンプルで対称性の高い美しい構造と、多彩な物性が期待される点に魅了されたからです。

研究上の工夫等

研究上の工夫等

カーボンナノリングを構成する平面ユニットとして利用された前例がない、キノリン環を用いたことです。最も単純な窒素系の平面ユニットであるピリジン環は、既存のカーボンナノリング合成法のうち限られた方法しか用いることができません。一方、ピリジン環に類似した窒素原子を有するキノリン環は複数のアプローチが可能で、現にいくつかの誘導体を合成することができました。また、電子的に非対称なキノリン環は、位置選択的に化学修飾を施すことが可能なため、容易に構造展開できると考えています。

社会とのつながり

分子の構造を自由にデザインできるこの研究は、新たな機能性分子や医薬品の開発に資する分子の創出に繋がります。中でもカーボンナノリングは、有機エレクトロニクス材料やリング内部に特定の分子を包接するホスト分子材料など、幅広く機能性材料としての応用が期待されています。また、カーボンナノリングを筒状に繋ぎ合わせることで、次世代炭素材料として私たちの生活を支えているカーボンナノチューブを合成できる可能性が期待されています。窒素原子を導入した新しいカーボンナノリングを創製することで、窒素の特性を活かした酸性環境応答や遷移金属錯体化が新たに期待でき、既存分子とは一線を画する機能性材料を創出する足掛かりになればと考えています。

今後の展望(研究)

今後の展望(研究)

自らデザインした分子の、機能性分子としての応用を目指したいと考えています。例として、生体内の環境変化を光として可視化する蛍光プローブへの応用が挙げられます。現在合成に成功している1つのキノリン型カーボンナノリングは、酸応答性の吸収・発光特性を示すため、蛍光プローブとしての資質を備えています。しかし、実際に利用するためには生体環境に適した溶解性や波長領域が必要であり、さらに分子構造を磨き上げる必要があります。そこで、分子骨格はそのままに様々な構造修飾を施すことで物性をチューニングし、望みの機能を発現する分子へ成長させていきたいと考えています。

今後の展望(キャリア)

今後は、新しい分子を創製する研究を通じ、人々の健康や福祉に貢献したいと考えています。医学・薬学の臨床現場ではまだまだ多くの課題が残されており、病院や薬局での実務実習で、病に苦しんでいる患者さんを目の当たりにしたためです。そこで、これまでの有機化学の研究と薬学のバックグラウンドを活かし、新規医薬品リードとなる化合物や、医薬品の製造コストを削減するための高活性触媒などの開発に挑戦したいと考えています。

後輩へのメッセージ

博士課程での研究は、自身のアイデアで世の中に変革をもたらす挑戦ができる場だと考えています。思うような結果が得られないことがほとんどですが、試行錯誤を重ねてひとつでも自身の考えから新しい発見が生まれると、とても大きなやりがいを感じられると思います。Keio-SPRINGをはじめとする研究費や生活費の支援も充実しているので、経済的な理由で進学を悩んでいる方にもぜひ挑戦してほしいと思います。