研究テーマ

毛細血管の流れに対する形状変化則の解明

私たちの体は血管を通して物質送達、ガス交換を行い、生命を維持している。物質交換を担う血管は、毛細血管と呼ばれる髪の毛以下の微小スケールの組織である。毛細血管は体内で肝臓や腎臓といった臓器それぞれで特異的な形状を持っており、それらの形状が臓器特異的な毛細血管を介した代謝を可能にしている。また、毛細血管は外的刺激に応じて血管径や分岐構造を変化(リモデリング)させており、環境に応じた血管網を維持している。再生医療や創薬において臓器モデルを生体外で構築する際も、臓器特異的な毛細血管網を、リモデリングも考慮した上で構築する必要があるが、従来の培養手法では形状制御した微小血管の構築が困難であった。
そこで、本研究はマルチフォトンリソグラフィー (MPL) と呼ばれる技術を応用し、 レーザー加工で足場材料内に微小テンプレート構造を作製し、 そこで血管内皮細胞を培養することで任意の形状をもつ毛細血管モデルの構築を可能にした。この血管形状を規定可能な革新的実験系を用いることで、血管に負荷される剪断応力の刺激を厳密に制御し、血管が径や分岐構造を変化させる(リモデリングする)機序の解明を目指す。

研究のきっかけ

私は幼少期から、なぜ自分が生きているのかを知りたかった。中学生の時に細胞という概念を知り、人間は細胞が数十兆個の細胞が合わさって成り立っていることを知り、生命の複雑性に魅了された。生命に興味を持ち続けたまま、学部3年時、システムデザイン工学科須藤亮教授の講義であるシステム生命工学で、細胞を部品として扱いロボットを組み立てるように組織を構築する、”組織工学”という概念を知った。組織工学では組織の構築論から生命システムの原理を抽出することを目指すことを知り、この学問こそが自分の疑問に答えてくれると確信を持ち、研究テーマにしたいと思うようになった。研究室では肝臓、胆管、がん等の組織を扱うテーマがあったが全身に普遍的に分布して生命を根本から支える組織である血管を自身のテーマにした。血管研究としては、臓器を再生するにはそれらの臓器内部に特異的に配置されている毛細血管の構築手法の確立が必要であると考え、形状を制御した微小血管構築法の確立を目指すこととした。

研究のきっかけ

研究上の工夫等

一般的に、毛細血管を生体外で構築する手法は、細胞の自発性に依存したランダムな形状の血管しか得られないものであった。従って、毛細血管を所望の形状で人工的に作ることをは、従来の手法では困難であった。
本研究は、毛細血管スケールで形状制御した血管を構築するために、マルチフォトンリソグラフィー (MPL) と呼ばれる技術を用いている。この手法では、足場材料であるハイドロゲルにレーザー微細加工を施し、所望の形状のトンネルのような中空のテンプレート構造を構築することができる。その後に血管を構成する血管内皮細胞を培養すると、加工したテンプレート構造に沿って血管を形成する。しかし、テンプレート構造に沿って血管形成を起こさない場合が多くあるので、本研究ではどのような培養環境を用意すれば血管形成を狙って起こせるかを追求している。

社会とのつながり

本研究は、血管が通った三次元組織の再生のための重要なステップである。リモデリングの機序に関する本研究の知見は、培養組織内で構造変化を起こさない血管網デザインの基準になる。リモデリングを考慮した血管網を持つ三次元組織は、 創薬における前臨床のミニ臓器モデルや、組織の疾患モデルの構築に応用することができ、 最終的には自己細胞由来の臓器再生に繋がる。臓器再生の第一歩になる本研究は、生体工学のみならず、生物学、医学に多大なインパクト与える。

今後の展望(研究)

本研究は臓器特異的な毛細血管の構築を主眼に置いている。血管再生から発展させ、実質細胞との共培養を行い血管と実質細胞の位置関係までを再現した生体外組織の再生を行うことができれば、臓器の再現性が格段に上がると考えている。生体内の再現度が高いミニ臓器モデルは創薬領域での活用が期待できる。
長期的には、毛細血管を通して三次元組織構築を拡張し、生体外でフルサイズの臓器の再生を行いたい。最終的に、自己由来の細胞のみでフルサイズの人工臓器を構築できるようになれば、臓器不全の際の移植治療において、臓器提供者からの移植以外の有力な選択肢ができると考える。

今後の展望(キャリア)

自身の興味を追求しつつ、世の中にある大きな壁を壊すことを志す研究者でいたい。一つの発見が医療の発展に寄与し、数十億人の命を救う可能性がある。私は、世界にインパクトを与える様なものつくりに関わりたい。どの環境で、ものつくりや興味の追求を行うかは模索中である。

今後の展望(キャリア)
今後の展望(キャリア)

一般の方へのメッセージ

私たちはなぜ生きていられるのでしょうか?細胞はまるで意志を持っている様に精巧に私たちの体を構成していますが、その中には何かシンプルなルールがあるのではないでしょうか?言葉が変わっただけで、小学生の時から持っている疑問に答えるために研究をしています。

企業の方へのメッセージ

私の研究は生体外で生体組織の再現をする、あらゆるテーマに応用可能であると考えます。
血管病態モデル、ミニ臓器モデル等の前臨床プロセスで活用可能な生体外培養モデルの構築にも強い興味を持っています。

後輩へのメッセージ

修士課程から継続して研究を続け、知識を蓄積していくにつれて、どんどん新たな疑問点や研究アイデアが湧き出てきます。それらのことに全身全霊で取り組むことに非常にやりがいを感じています。博士課程では学会発表や研究費申請をはじめとしたチャンスが多くあります。それらを通して沢山の経験、人との出会いを得ることができ、今後の人生の糧になることを確信しています。