
研究テーマ
消費者行動の実証分析とその方法論
私は、主に消費者の行動を研究し、これまで限定的な理解であった複雑な消費行動メカニズムを、特に心理と行動の両面から分析することを目指し、実際のデータを使った実証研究やその統計的手法についての方法論研究をしています。
実証研究としては、修士1年次にはふるさと納税と寄付に関する研究を行い、「ふるさと納税およびクラウドファンディング型ふるさと納税の利用動機の分析」として査読付き雑誌に掲載されています。その後は、価格を据え置きパッケージの内容量を変更する、いわゆるシュリンクフレーションの研究をしており、サーベイ論文の執筆や実証分析を行なっています。また方法論の研究としては、消費者の調査データ(アンケートなど)と行動データ(売上など)を統合するための手法や、調査データを大規模言語モデルにより代替するための手法の研究なども行なっております。
研究のきっかけ
私は慶應経済の学部卒業後、民間の企業に就職していましたが、企業で実務を行っている間にそこで生み出されるデータが活用されていないことに疑問を感じ、経済学大学院に再入学し、企業データでの実証分析研究の多い現指導教官の星野研究室に入りました。
入学後には統計学や経済学を勉強する中で、指導教官より寄付事業を行う共同研究先企業との提携を担当させていただき、そこでの成果を最初の研究にさせていただきました。
その後は経済学部で培った行動データ分析と上記論文で培った調査データ分析を組み合わせた理論・実証研究を行なっています。特に実証研究では、伝統的な経済学では分析できない現実の課題を研究したいと考え、インフレを機に注目されたシュリンクフレーションという消費者が内容量に気が付きづらいという認知メカニズムを利用した企業戦略の研究を行っています。
研究上の工夫等

ふるさと納税の研究では、ユーザーの実際の寄付利用者へのアンケートデータを用い、自己決定理論を援用し、ベイズ推定法による構造方程式モデリングで分析しました。これまでふるさと納税制度自体の実寄付データを用いた研究、さらにはこれとガバメンタルクラウドファンディングとも比較可能な研究は存在しなかったので、企業様と密に連携することで、実際にサーベイによるデータ収集を行えたことが、ユニークで価値のある研究につながったと考えています。
他にも、調査データについてはデータ収集コストが高いこともわかったので、大規模言語モデルによる生成データにより顧客への調査を代替する手法を従来機械学習分野で用いられる伝統的な統計学ではなく、心理統計の側面から検討した結果、HCI(ヒューマン・コンピュータインタラクション)の分野で用いられるペルソナを介することで性能向上が実現されることがわかりました。
社会とのつながり
消費者の様々なデータが社会や企業で集まるようになったとしても、そのデータが何らかのメカニズムで人々が行動した結果でありますので、その行動心理やインセンティブを理解することによって、より本質的なデータ理解と意思決定ができると考えています。ふるさと納税やシュリンクフレーションなどの実証研究は、いずれも消費者の行動メカニズムを実証することで、データを用いた企業や政府の意思決定の一助となると思います。事実、ふるさと納税の研究については、提携企業様や地方自治体にてすでに実用いただきました。
また、得ることが難しいデータも依然存在しますが、データ統合・融合や人工知能技術などの研究により、その利用障壁とバイアスは減らすことができると思います。
今後の展望(研究)
今後も引き続き消費者の行動を研究し、研究成果を社会に還元したいと思います。しかし、人間行動のメカニズムを総合的に理解するというのは社会科学におけるデータ一般についても議論できますので、社会政策(投票行動など)や疫学(処方行動など)、情報学(フェイクデータ生成など)などの他分野との知見融合もユニークな研究となると思います。
今後の展望(キャリア)
コロナ禍によるデジタル化の加速や生成AIの普及を経て、一段と得られるデータが増えた昨今ですが、この流れは今後も続くと思います。そのような社会において、データサイエンスの専門家として貢献できるよう、今後も精進したいと思います。
企業の方へのメッセージ
購入や寄付行動、学習、労働、投票など様々な人の行動の背景には、その行動のモチベーションがあるから行うと考えられます。その分析の枠組みの一つである自己決定理論(Ryan and Deci, 2000)に基づく研究を以前行いましたが、モチベーションの源泉をアンケートや行動データをもとに把握することで、人の心を動かすためのアイデアをデータから読み取ることができます。
シュリンクフレーションは小売業においてサイズのみを小さくする戦略ですが、それをどのような財でどの程度、いつ行うべきかについてはこれまで経験的であり、その最適化は国際的にも社会的にも注目されています。
大規模言語モデルによるアンケートの代替は、仮想的な顧客を自社データベースに作ることを実現でき、コスト削減とサービスの改善速度の上昇に貢献することが期待されています。
学生、他研究機関へのメッセージ
特に、人間の行動メカニズムやデータ生成・統合・融合などについて共同で研究できれば幸いです。
後輩へのメッセージ
コロナ後のデジタル化や生成AIの登場を経て、データは集まりやすく、知識も集まりやすくなったことで、博士などの専門的知識によるデータの分析と知識の解釈の重要性が増したと思います。特に、学会や論文を通じて知識を発信し、反響が得られる時や、様々な論文での見解を読み解き組み合わせ、自身で新しい仮説を作れる時は、大学院ならではの面白さだと思います。
