
研究テーマ
発展途上国における貿易政策の影響
私の研究は、国際貿易政策や貿易ショックが発展途上国の労働市場にどのような影響を与えるのかを実証的に分析するものです。貿易自由化や国際経済統合は経済成長を促進すると思われますが、その影響は全ての国の労働者や全ての産業の労働者において必ずしも均等ではなく、十分に理解されていない部分も多いと考えています。
本研究では、主にカンボジアのデータを用いてこれらの問題を分析しています。具体的には、EUによる特恵関税制度がカンボジアの人々の雇用や、子どもの教育に与える影響を分析しています。また、中国からの輸入の増加、特に中間財の輸入がカンボジアの製造業雇用や労働市場に与える影響についても研究しています。
貿易データと地域レベルの労働市場データを組み合わせた実証分析を通じて、グローバルな貿易政策が発展途上国における雇用機会にどのような影響を与えるのかについて、新たな実証的知見を提供することを目指しています。
研究のきっかけ
私がこの研究テーマに関心を持つようになったのは、修士課程のときにカンボジアの研究機関でインターンとして働いた経験がきっかけです。当時、EUの特恵貿易制度であるEverything But Arms(EBA)をめぐって議論が行われていました。カンボジアにおける人権問題への懸念から、EUはカンボジアに対するEBAの適用を撤回することを検討していました。
この状況を受けて、EBA制度がカンボジアの経済に利益をもたらしてきたのかについて、EUとカンボジア政府の間で大きな議論が起こりました。EU側は、この制度がカンボジアの経済発展を支えてきたと主張していましたが、カンボジア政府はその効果の大きさについて疑問を呈していました。
この議論を間近で見た経験から、発展途上国における貿易特恵制度の影響を実証的に検証したいと考えるようになりました。特に、こうした貿易政策が現地の人々の労働機会や生活環境の改善につながっているのかという点に関心を持つようになりました。
研究上の工夫等

本研究を進めるにあたり、私はデータの活用、厳密な実証分析手法の適用、そして現地の状況への理解を重視しています。カンボジア国家統計局との協力を通じて、詳細なデータにアクセスすることができています。また、経済学における最新の計量手法を学び、研究に応用することで、実証研究のスキルを継続的に高めるよう努めています。
さらに、現地との関わりも研究において重要であると考えています。カンボジアを訪問し、現地の人々と交流することで、地域の実情をより深く理解し、実証分析の結果をより現実に即した形で解釈することを目指しています。
社会とのつながり
国際貿易が労働市場に与える影響については多くの研究が行われてきましたが、後発開発途上国(LDCs)に焦点を当てた研究は比較的限られています。労働市場の構造や比較優位は国によって異なるため、貿易政策が低所得国の経済に与える影響は先進国とは異なる可能性があります。カンボジアにおける貿易特恵制度やグローバルな貿易ショックを分析することで、本研究はグローバル化がこうした国々の労働者にどのような影響を与えるのかについて、新たな科学的根拠を提示することを目指しています。
また、本研究では貿易政策が子どもの教育に与える影響についても分析しています。これは、貿易が経済発展に与える長期的な影響を理解するうえで重要な視点であると考えています。
さらに、中国の輸出拡大の影響については多くの研究が存在しますが、途上国における中間財輸入の役割に焦点を当てた研究は比較的少ない状況です。本研究はこうした点にも着目し、貿易と経済発展に関する政策議論に新たな示唆を提供することを目指しています。
今後の展望(研究)
現在の研究では、EUの貿易特恵制度がカンボジアにおける雇用や経済機会に対して一定の正の影響をもたらしている可能性が示されています。これらの結果は、貿易特恵の撤回を検討する際には、その政策が一般の労働者に与える影響を慎重に考慮する必要があることを示唆しています。
また、発展途上国における労働市場の変化を理解するうえで、中間財貿易の役割についてもさらに研究を進めたいと考えています。グローバル化に関する議論では輸入競争の影響が強調されることが多いですが、現代の国際貿易は複雑な生産ネットワークや中間財の取引によって支えられています。こうしたメカニズムを分析することで、グローバルな貿易が地域経済にどのような影響を与えるのかについて理解を深め、貿易とグローバル化に関する政策議論に貢献したいと考えています。
今後の展望(キャリア)
研究者としては、今後も国際貿易および開発経済学の分野において最前線の研究に取り組み、学術的および政策的な議論に新たな実証的知見を提供していきたいと考えています。また、教育者としては、最新の研究成果を学生と共有し、経済学の研究が現実の社会問題をどのように分析するために用いられるのかを理解してもらうことを大切にしたいと考えています。
さらに、現在の世界は地政学的緊張や紛争など多くの不確実性に直面しています。そのような状況の中で、私の研究がグローバル化への理解を深め、より安定的で平和な国際経済システムの発展に、わずかでも貢献できることを願っています。
社会へのメッセージ
私の研究は、国際貿易が人々の日常生活、特に発展途上国においてどのような影響を与えるのかを明らかにすることを目的としています。貿易政策はしばしば国家レベルや国際レベルで議論されますが、その影響は最終的には労働者や家計といった人々の生活の中で現れます。カンボジアなどの国を対象に、貿易特恵制度やグローバルな貿易ショックが雇用機会や子どもの教育にどのような影響を与えるのかを分析することで、グローバル化が経済機会や長期的な経済発展にどのように関わっているのかについて理解を深めることを目指しています。