
研究テーマ
量子多体系ダイナミクスの制御・設計による組合せ最適化アルゴリズムの研究
組合せ最適化問題は、物流、物質科学、金融など社会のあらゆる分野に存在している重要な問題として知られています。しかし、組合せ最適化問題は、問題サイズに対して解候補となる組合せの数が指数関数的に増加してしまう組合せ爆発を示すため、計算困難な問題として知られています。そこで、組合せ最適化問題に対して探索的に解を得る手法が広く研究されています。
その有力なアプローチの一つが、量子コンピュータを利用した最適化手法です。特に量子アニーリングと呼ばれる方法は、量子力学の性質を利用して効率的に解を探すことができる可能性があり、注目を集めています。
一方で、現在の量子アニーリングマシンには性能や構造に制限があり、すべての問題をうまく解けるわけではありません。
そこで本研究では、量子アニーリングにおける物理現象に着目し、その仕組みを詳しく理解・活用することで、これまで求解困難だった問題にも対応できる、新しい最適化手法の開発を目指しています。
研究のきっかけ
私はもともと最適化に強い関心を持っていました。一方で、学部時代に量子力学を学ぶ中で、直感的には理解し難い現象を理論的に説明できる点に強い興味を抱きました。こうした背景から、最適化問題に対して量子力学的手法を適用する研究に魅力を感じ、量子アニーリングを中心に研究を行っている田中宗研究室に所属しました。
研究を進める中で、情報として扱われる組合せ最適化問題が、量子力学や統計物理学の枠組みで記述できることに大きな面白さを見出しました。特に、エネルギー構造や相転移といった物理的概念が最適化の難しさや性能と密接に関係している点に興味を持つようになりました。
このような背景から現在は、量子ダイナミクスや物理的性質の理解を深めることが、最適化性能の向上にどのように寄与するかという観点に重点を置き、研究に取り組んでいます。
研究上の工夫等
私の研究の独自性は、量子アニーリングにおいて任意に設計可能な部分の性質を評価した点や、制御パラメータの古典最適化による設計により従来の量子アニーリングの課題解決を目指している点にあります。特に、理論設計に留まらず、量子アニーリングマシンを用いた実機実験、数値シミュレーション、および解析的手法を組み合わせた多角的なアプローチにより、提案手法の有効性を検証している点が特徴です。
また、性能評価においては単なる最適化結果の比較にとどまらず、エネルギーギャップやハミング距離といった物理量に基づく解析を行い、量子ダイナミクスの観点からメカニズムの理解を試みています。さらに、量子アニーリングの動作原理である断熱定理に厳密に従うことを前提とせず、むしろ非断熱遷移や励起状態の活用を積極的に取り入れた手法を提案している点も、本研究の重要な工夫です。これにより、従来の断熱的枠組みに依存しない新たな量子アニーリングおよび量子最適化の設計指針を提示することを目指しています。

社会とのつながり
本研究は、組合せ最適化問題をより効率的に解く手法の確立を目指しており、物流、物質科学、金融などの幅広い分野における意思決定の高度化に貢献することが期待されます。これらの分野では大規模かつ複雑な最適化問題が頻繁に現れるため、本研究の成果は計算コストの削減や新たな最適化問題の求解を通じて、産業応用への直接的な波及効果を持つと考えています。
また、本研究は量子アニーリングの性能を引き出すための制御手法の設計に焦点を当てており、その結果として、どのようなハードウェア特性や制御精度に対する示唆を与えています。この点において、本研究はアルゴリズム開発にとどまらず、量子アニーリングマシンの実機設計に対する指針を与える役割も担っていると考えています。
今後は、理論・数値・実機実験を通じて得られた知見を統合し、量子最適化技術の実用化とハードウェア開発の両面に貢献することで、量子コンピュータ技術の社会実装を加速させていきたいです。
今後の展望(研究)
量子最適化および量子多体系のダイナミクスに関する研究を継続的に発展させていきたいと考えています。また、量子情報理論や量子計算など幅広い分野にも取り組み、基礎から応用までをつなぐ研究を推進したいです。
量子情報技術の発展には、量子コンピュータの実機、量子アルゴリズム、そしてその応用のいずれもが不可欠です。これらを統合的に発展させることで、量子技術が社会の中で自然に活用される未来の実現に貢献したいと考えています。
今後の展望(キャリア)
今後は研究者として、専門分野の研究を深化させるだけでなく、異なる分野や立場をつなぐ役割を担いたいと考えています。特に、理論と実験、基礎研究と応用開発の間にあるギャップを埋めるような研究者として、新しい価値を生み出していきたいです。
また、企業や他分野の研究者との連携を通じて、現実の課題に対して有効に機能する技術の形を模索し続けたいと考えています。その過程で得られた知見を社会に還元し、研究成果が実際に活用されるところまで関わることを目標としています。
さらに、将来的には教育や人材育成にも携わり、次世代の研究者が分野横断的に活躍できる環境づくりにも貢献したいと考えています。

社会へのメッセージ
組合せ最適化は思いがけないところにたくさん存在しています。これらの最適化問題は量子コンピュータを想定した定式化を行うことで、物理現象に対応させることができます。物理現象を解明することが最適化問題を効率的に解くことにつながる非常に興味深い分野です。
企業の方へのメッセージ
組合せ最適化問題は至る所に存在しています。そのため、学術的な興味だけではなく、産業インパクトも大きい分野です。特に、量子最適化の分野では、メタヒューリスティックな手法が主流なので、既存の手法を広く適用可能な場合が多いです。これらの分野で大規模なデータを取り扱うことや具体的なベンチマーク問題を検証できることは、研究テーマとして非常に興味深いです。
後輩へのメッセージ

博士課程に進むと、自分の専門にじっくり向き合い、それを徹底的に深めていく時間を持つことができます。研究を通して得られる専門性は、単なる知識にとどまらず、自分の人生の軸となる自信に直結します。また、これほどまでに一つのテーマに没頭できる期間は、その後の人生でもそう多くはありません。だからこそ、博士課程という時間は非常に貴重だと感じています。さらに、博士課程では分野を越えて多くの人と関わる機会があり、自分よりもはるかに高いレベルで活躍している研究者に出会うことも少なくありません。そうした出会いは視野を広げるだけでなく、自分自身を大きく成長させるきっかけになります。自分が打ち込んだ分だけ得られるものも大きいので、自分の興味と向き合いながら、思い切り研究に打ち込める環境を活かしたい人は、博士課程は絶好の場所だと思います。