異分野の博士学生が一堂に会し、
未来を語る場を学生の手でつくる
―慶應コロキアム2026―
慶應義塾大学が全研究科の博士課程学生を対象に実施する「Keio-SPRING」。その採択学生が年に一度集う「慶應コロキアム」は、学生主導で企画・運営される、国内でも類を見ないユニークな取り組みです。
2026年3月3日(火)の開催に向けて準備が進む中、慶應コロキアムの立ち上げから統括を担っていただいている稲蔭正彦教授と、実行委員の今井隼人さん(博士課程2年)、田中雄輝さん(博士課程1年)にお話を伺いました。
(掲載内容は2026年1月インタビュー時点の情報となります)
INTERVIEWEE
稲蔭 正彦
メディアデザイン研究科 研究科委員長
KGRI Keio STAR (Sustainable and Transformative Actions for Regeneration)共同所長
慶應コロキアム オーガナイザー
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メディアデザイン研究科委員長を務め、2021年度より開始したKeio-SPRINGプロジェクトにて慶應コロキアムを立ち上げ、オーガナイザーとして携わる。
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田中 雄輝
理工学研究科
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物理的な実世界における産業自動化を目指し、ロボットとAIを統合する研究に取り組んでいる。
研究課題
⼈間とロボットの形態の違いを克服する動作データドメイン適応アルゴリズムの開発
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今井 隼人
理工学研究科
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自治体における持続可能な開発目標(SDGs)の推進について研究を行う。
研究課題
統計的因果推論に基づくローカルSDGs達成に向けた政策プロセスのシステム解明
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インタビュー回答者以外の実行委員メンバー紹介

まず、慶應コロキアムの目的と意義について教えてください。
- 稲蔭
- Keio-SPRINGでは、未来のコモンセンスをつくる博士人材の育成を掲げています。しかし、採択学生が所属研究室の中だけで活動していては、真のイノベーションは生まれにくい。本学は総合大学であり、さまざまな分野の研究をしている学生たちがそれぞれの専門性や社会に対する思いを共有し、融合的な研究活動にも挑戦して欲しいと考えました。 世界に目を向けると、ダボス会議(世界経済フォーラム)のように異なる分野や立場の人々が一堂に会し、専門性をベースにしながらグローバルな課題に取り組む場があります。また、スイスのザンクトガレン大学では学生主体で世界のリーダーを招き、世代間対話を行うSt. Gallen Symposium(ザンクト・ガレン・シンポジウム)を毎年開催しています。 そうした“総合知”の考え方は、今まさに内閣府も提唱している重要な概念であり、学生にとってもこの視点は非常に大事なマインドセットです。そこで、Keio-SPRING版のダボス会議やSt. Gallen Symposiumを目指して立ち上げたのが「慶應コロキアム」です。
2022年から毎年開催していますが、現在に至るまでの手応えはいかがですか?

- 稲蔭
- コロナ禍もあったため、オンラインを併用するハイブリッド形式で発展させてきました。 基調講演などプログラムのベースは私が提案しました。慶應コロキアム発案者としてぜひ実現したいと思ったのは、参加者同士がディスカッションするセッションを入れることです。実際に私自身がダボス会議に参加した際、単に有識者の話を聞くだけでなくさまざまな立場の人が車座になって意見を出し合い、最終的に課題解決の方向性をまとめ上げる様子は実に刺激的だと感じたからです。慶應コロキアムでも毎回活発な議論が生まれています。異なる研究科の学生たちが工学、心理学、歴史学など多様な角度から一つのテーマを語り、議論が深まっていく。それは一つの研究科では実現できないことです。総合大学だからこそ実現ができる横断的なプラットフォームだと考えています。
回を重ねる中で、変化してきた点はありますか?
- 稲蔭
- 毎年、実行委員を担ってくれる学生の意見を取り入れながらブラッシュアップする形で開催しています。Student sessionとして最高学年の学生による研究内容の発表と、それに対する質問・意見交換の場を発案したのも学生でした。参加者は会場を自由に回りながら聴講・質問を行うことで、盛り上がりや密度の高い交流が生まれる。これも慶應コロキアムならではのユニークさだと感じています。 また、コロキアムでつながった異分野の学生同士が交流を深めたいという声から、「博士卵の会」という自主的な集まりも生まれています。情報交換や相互発表の場として活用しているということで、横のつながりが継続することは本当に素晴らしいです。
2026年度の開催にあたり、今年度は4名の実行委員で企画・運営をしておられます。代表して今井さんと田中さんにお話を伺いますが、まず、お二人が実行委員に立候補された理由を教えてください。
- 今井
- まず、私の研究テーマは「都市の持続可能性」であり、サステナビリティとは未来の社会像を想像し、未来に思いを馳せることだと日々感じています。その過程においてさまざまな立場の人々がお互いの思いや知識を交換していくプロセスの重要性を感じていました。 そして昨年慶應コロキアムに参加してみて、まさに私が関心を抱いていた「未来のための議論」そのものだと感じました。ここで得られる経験は、自分の研究を深めていく上でも直接役立つ。そう感じ、企画からより深く関わりたいと今回の実行委員会に応募しました。
- 田中
- 私は本年度からの採択で、まだコロキアムへの参加経験はありません。ただ、Keio-SPRINGでは博士の人材育成としてさまざまなプログラムの受講が推奨されています。慶應コロキアム実行委員になれば意欲ある博士学生と深く議論できますし、より踏み込んだ交流ができると思って参加しました。 私はロボット工学が専攻で、普段は同じ分野であるロボットや機械工学、電気電子の研究者との交流が主です。他の研究科の博士学生と話す機会はほとんどないので、非常に意味のある時間になるだろうと期待していましたが、まさにそれを実感しています。

企画を進める上で苦労している点、逆にやりがいを感じる点は?
- 田中
- 参加する学生の研究分野が多岐にわたるので、専門知識に偏りすぎない設計をしながら、どんなテーマならみんなが議論できるかを考える点ですね。ただ、その難しさが同時に面白さでもあります。日本人学生だけでなく留学生もいるので、多様な意見が出てくることを期待しています。
- 今井
- 実行委員の中でも、テーマについて調べた結果を報告してみると、意外と専門とは全然違うことに興味を持っている人が多いと感じました。普段はなかなか話す機会がないテーマ、例えば政治や社会情勢、国際関係等についても多様な視点から議論できる。コロキアムがそういう場になればいいなと思っています。
基調講演はメイントピックスの一つですが、講演者はどのように選定されていますか。
- 稲蔭
- “学生のキャリア意識を刺激する”“視野を広げる”といった意味もあり、博士号を取得後、大学や研究機関等以外のフィールドで活躍されている方をお招きするようにしています。過去には、岡島礼奈さん(東京大学大学院修了。ゴールドマン・サックス証券株式会社就職後に宇宙開発とエンターテインメントの融合を掲げる株式会社ALEを起業)、三ヶ田麻美さん(慶應義塾大学大学院修了。国際再生可能エネルギー機関(IRENA)で活躍)などをお招きしました。オーソドックスではない、といったら語弊がありますが、アカデミア以外の分野にて社会で活躍する博士出身者という観点から、キャリア・研究について経験を交えた講演いただくことで、参加学生も今後のキャリアや研究のための深い学びを得ています。
ハイブリッド開催にしていますが、ぜひ現地参加で積極的なコミュニケーションを図って欲しいですね。
- 今井
- そうなんです。昨年、僕自身がリアル参加したのですが、博士課程の学生がホールに一堂に会する光景を見て「慶應全体でこんなに博士課程の学生がいるんだ」と驚きました。 学会だと同じ分野の人が集まりますが、コロキアムは多様な分野の、それぞれの文化を持った人たちが集まります。その“ごちゃまぜ感”を肌で感じるのは本当に楽しいですし、このコロキアムかつ現地参加でしか感じられないものだと思います。
- 田中
- オンラインだとどうしても議論が単線的になりがちで、誰かが話している間は他の人は話せませんし、気軽な雑談も容易ではありません。研究についての悩みや本音でもいいですし、博士学生への支援制度の情報交換など本題以外の話もできるという意味では、対面参加のメリットは大きいですね。
- 稲蔭
- 人と出会って話すこと、休憩時間の雑談、そこから発展する共同研究――。そうしたネットワーキングがむしろ最大の価値ですよね。意気投合して連絡先を交換する、当日懇親会をするといった裏舞台の交流も生まれるでしょうし、対面ならではの強みを活かすポイントだと思っています。
この経験を今後の研究にどう活かしていきたいですか?
- 今井
- 未来社会のあり方を考える上で、異分野の専門知識を持った研究者同士の議論は今後必ず必要になるプロセスだと思います。そうした分野間の議論をリードする技術をここで身につけたいですね。 また、私はSDGsを研究テーマとして扱っているので、それを起点に国際的な議論にも参加していきたいと考えています。自分のキャリアのためだけでなく、日本として国際的な議論に参画し、存在感を出していくことに貢献したいです。
- 田中
- 博士号を持っているから大学教員、メーカーの研究職、という従来の選択肢だけにとらわれないニュートラルな視点を持ちたいと考えています。博士号はもっと普遍的な、いわば一つのキャリアとしての資格であり、活躍のフィールドも多様であっていいはず。コロキアムでは、まさにそうしたキャリアを歩んでいる方のお話も聞けるので、固定観念にとらわれないキャリアの参考にしたいです。 あとは、私の専門であるロボットと機械学習の分野は今すごく盛り上がっているので、世界に負けないように頑張っていきたいです。
最後に、参加する学生の皆さんへメッセージをお願いします。
- 今井
- コロキアムは本当にユニークな場で、国内の大学を見渡してもおそらく慶應義塾大学でしか行っていない試みです。かつSPRING採択生のうちにしか体験できないことなので、ぜひリアル参加してあの場の雰囲気を感じて欲しい。この貴重な場を一緒に作る仲間の一員だという意識をみんなで共有できたらいいなと思います。
- 田中
- 多分野の博士学生との交流を楽しんでもらえたら嬉しいですし、私自身も好奇心を持って関わっています。今回のコロキアムがまた来年、再来年につながっていくと思うので、その流れを一緒に作っていけたら嬉しいです。
- 稲蔭
- 「総合知」という言葉が示すように、複雑化する社会課題に向き合うためには、専門性を超えた対話がますます重要になっています。自分の専門領域以外への好奇心や探求心、それを持てると、次は「Connect the Dots」、要は点と点をつなぐことができるようになります。異分野との出会いによって新しいものが生まれていく。そういう世界観を自分自身で大切にしてください。慶應コロキアムは、まさに異なる研究科の学生というDot同士がつながることを目指しています。学生主導で企画・運営されるこの場が、参加者一人ひとりの視野を広げ、将来のイノベーションにつながる「点と点のつながり」を生み出すことを期待しています。
